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ハイエルフ決戦前日


 その報告は驚きをもって伝えられた。
 アグラヴェイン「増援部隊は届かぬと申すか?」

 伝令「は、まことに残念です、八門島に入る直前で補給船は撃沈されてバトルピルグリムは…」

 アグラヴェイン「いや、このアグラヴェイン、例え素手でも任務はやり遂げてみせると、アマンド公には御伝え下さい」

 腐敗のディーモン達が空より襲来し、この局面ではどんな宝石よりも貴重な兵糧や援軍が決戦前に失われたというのだ。

 
 

  

 「これは、兵法で言うところの支形ではないですか」
 
 絵図を見てモルドレッド卿が語りかけた。

 「そうだ、物見のヨーマンからの報告によるとハイエルフとの接触は明日の昼過ぎになる。この山あいで戦う他ない」

 「動かせる部隊が少ないのが心残りだが、軍令のもとに命ず。名誉ある先鋒は貴卿に任せる!行ってくれるな」

 冷たく、しかし毅然としてアグラヴェイン卿は命を下した。

 「ご命令とあらば喜んで、それが騎士の道であり法というものです」

 騎士の礼で以ってモルドレッドが返答する。ここまで来たら兵力の多寡にかかわらず戦うしかないのだ。



 しかる後、本陣の天幕前では総大将アグラヴェイン卿が檄を飛ばした。

 「諸君!いよいよブレトニアの誇りをかけてハイエルフと再戦の時が来た!私はこの戦いを、ここにいるモルドレッド卿以下の勇敢なる戦士諸君の双肩に委ねる!諸君の凱旋を待っている、存分に戦ってきてほしい!」

 しかし、眼下に居並ぶ部隊の士気は一向に上がらない。

 どう見ても、今回出陣に選ばれたのは切り捨てられる部隊としか思えないからだ。ムジヨンの旗を掲げるナイトオブザレルム1部隊と半壊したペザント・ボウマン隊、いずれもモルドレッド卿が連れている兵たちだ。そしてお情けで付けられた散兵戦術をとることが出来る密猟者たち、これだけだった。

「では、これより出発する!諸君の健闘を祈る。全員、行軍始め」

 モルドレッド卿が命を下すと、足取りも重く隊列が動き始める。その様はさながら葬列を思い起こさせるものであった。


 やがて視界から軍勢が消えた後、おもむろにアグラヴェイン卿が口を開いた。

「これで良し。邪魔者は綺麗に消え去りペガサスナイトも全て温存出来た。我が甥よ、後は残った渾沌の手先どもを打ち破り、軍旗を携えエイキュテインに凱旋するだけだな。」

 背後に控えていたガングラン卿が静かにうなずく。正軍旗手の権限で以って、マジックスタンダードは今回エミールの小娘には使わせなかったのである。

「さて騎士緒卿よ。先刻”無事に”到着した補給船から陸揚げした極上のボルドローワインを天幕に用意しておいた。」

 周囲に動揺が走る。ついさっき、船は沈んだと聞いたばかりではないか?その様子を満足気に眺めながらアグラヴェイン卿は言葉を続ける。

「ディーモンに空から襲われ船は沈んだと言ったな、あれは嘘だ。援軍はつつがなく到着し待機させておる。さあ、モルドレッド卿らの勇戦を祈って乾杯しようではないか!」

 すると、ペガサスナイトを率いるメリオット卿曰く、
「そういえば、御大将。ナーグルの悪魔にも空を飛ぶ奴がいると聞いたことが有りますぞ」

「あのブクブクと肥え太り腐りきった悪魔どもが空を飛べるものか!蠅の騎兵?有翼の悪魔の御子?そんな物は伝説だ!」

「では騎士緒卿、乾杯!!」

 決戦前夜に続く




 

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